採用 2024.02.13

採用組織論(採用におけるビジョン、戦略、組織について)

採用組織論(採用におけるビジョン、戦略、組織について)

こんにちは。Talent Attraction & Acquisition部(以下TA&A部)、採用マネージャーのミナミです。(壮大な題名をつけてしまったなとやや後悔していますがこのまま走ります)

ここ数年、私の頭の中で高いシェアを占め続けている問いがあります。それは、外部要因としての採用のマーケティング化(*1)、そして内部要因としての当社における採用組織拡大のもとで、採用チームの組織体制をどのようにすればいいのかについてです。

世の中には、採用の戦術に関する知識やテクニック論は山のように共有されていますが、採用チームの組織設計や体制、その背後にある考え方、いわば「採用組織の組織論」といえるものについては、内部情報ということもあるからなのか、あまり公にされていません(*2)。そこで、我々の組織体制について、その背景にある考え方や思想の部分を含め、我々の主観に偏りすぎないよう、学術知の力も多少借りながら語りたいと思います。

1.私たちの採用のビジョン

私が所属するTA&A部は、2022年10月に、全社の採用を推進する人材獲得専門部署として新設されました。詳細の経緯などは、以下の記事で解説していますのでよろしければ併せてご覧ください。

部署新設から1年。「採用のビジョン」について

部署新設から1年。「採用のビジョン」について

日頃、当noteでは私たちの採用活動の個別の取り組みを中心に紹介していますが、今日は採用活動全体のことについて書いてみたいと思います。テーマは「採用としてのビジョンとその必要性」です。

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TA&A部は、「採用のビジョン」というものを掲げており、それは『採用における独自価値を最大化し、採用市場において圧倒的に魅力のある企業になる』というもの。

さらに、その「採用における独自価値」の構成要素を「採用力5つの力」(*3)として整理し、5つの力それぞれを定期的に自己採点し、高めるためのアクションに落とし込んでいます。

社内資料より「採用力5つの力」
社内資料より「採用力5つの力」
社内資料より「採用力5つの力」を高めるためのアクション
社内資料より「採用力5つの力」を高めるためのアクション

また、「採用の独自価値」を高めた結果として、どのような採用の形が実現されなければならないのかについても定義し「4フェーズモデル」と名付けています。

社内資料より「4フェーズモデル」
社内資料より「4フェーズモデル」

最終的なフェーズ4の状態というのは、自社タレントプールからの採用という形を目指しています。つまり、自分たちで候補者データベースを構築して定期的に接点を持ち、経営からの採用オーダーに対しすみやかに適切な人材を自分たちで選定し提案する、オンデマンドな採用のあり方です。メンバーも含め、チーム全員がこれらを理解し、納得して日々の業務にあたれるようにしています。

採用チームとして目指すべき北極星となる「採用のビジョン」だけでなく、「5つの力」や「4フェーズモデル」もあることにより、採用担当としては、自分の目の前の活動や今からやろうとしている施策が、何につながっているのかがわかりやすくなります。それが採用担当自身の成長やキャリア構築にも寄与する点などは、以下の動画で部長の宮本も語っています。

もちろん、言葉や絵があるだけでは機能せず、採用マネージャーなどが折に触れて言葉を発し、進むべき道を示し続けることが大切だと考えています。

2.採用組織の体制

次に、実際の組織体制を少しご紹介します。まず、私たちTA&A部には大きく新卒採用、中途採用、採用ブランディングの3つの活動領域があります。それぞれに対し、組織内の役割として以下のロール設定をしています。

部内のロールとロール定義
部内のロールとロール定義

*当社採用活動についての補足*
・新卒:職種別採用で年間20~25名程度の採用。
・中途:営業・SE・開発・マーケ・CS等で年間70名程度の採用。
・新卒採用では、各部門社員約50名からなるリクルーター組織が別途存在。
・中途採用では、書類選考・面接などの選考は採用担当ではなく、基本的には各ポジションの部門社員が担当。また、ソーシングとコンスタントなスカウト送付は、プロフェッショナルなRPOリクルーターの方に参画いただいています。
・内定承諾後のオンボーディングは、隣接部署のPeople Success部が担当。

他にも語るべき採用の前提は色々考えられますが、代表的なものを記載

実際の組織体制は以下のようになっています。

担当者名は当採用広報ブログ上のペンネームに変更しています
担当者名は当採用広報ブログ上のペンネームに変更しています

3.組織とは何か、戦略とは何か

ここからは、ここまで解説してきた私たちの採用組織の運営の背後にある考え方を、学術知の力も借りながら紐解きたいと思います。

組織とは

まず、組織の定義をふり返るところから始めましょう。組織とは「2人以上の人々の、意識的に調整された諸活動、諸力の体系」であると、チェスター・バーナードは定義しています。(シンプルでありながら現実に観察される組織というものの特徴をしっかりと含み、尚かつ程よい抽象度であるため、個人的にとても気に入っている学術的定義の1つです)

新訳 経営者の役割

新訳 経営者の役割

『経営者の役割』C.I.バーナード (著)
画像はダイヤモンド社サイトから引用

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さて、この定義から組織について2つの特徴を見て取ることができます。

  1.  単に2人以上の人々ではなく、2人以上の人々の「力」であること
  2. 人々が「共通の目的」に向かって活動していること

第一の特徴によれば、ただ人がそこに集っていても組織とは言えず、そこから活動や力が引き出されていなければならないということがわかります。第二の特徴は、直接的に定義の中には書かれていませんが、「意識的に調整された」という部分から読み取ることができます。

以上から、組織の中では、人々の力が引き出されて、共通の目的に向かって活動が意識的に調整されていなければならない、とまとめることができると思います。そのためには何が必要か。1つには共通目的にあたるビジョンと、その実現のための戦略だと考えます。

**重要な寄り道**
ちなみに、ここでいう「共通の目的」とは、誰にとっての目的になるでしょうか?会社組織で働く多くの人々にとって、組織自体は多くの場合所与のものとして目の前にあり、(意識的であれ無意識的であれ)そこに参加します。したがって、組織の目標と、個人の目標とは基本的に別のものです。なぜなら、組織に参加する人は、組織の一員としての人格と、市井に生きる個人としての人格の2つを持っているからです。

だからと言って、これは何も悪いことではありません。これまたチェスター・バーナードが、組織が存続する条件というものを、組織の(内部)均衡条件として「誘因 ≧ 貢献」と定式化しています。つまり、組織の参加者は、貢献以上のリターンがあるとき、組織に残留するということです。何が「誘因」となるのか、それはケースバイケースですが、衛生要因はもちろんのこと、仕事を通じた成長が実現されうるか、個人のキャリア実現に資する、成長につながる仕事が組織として提供し続けられるか、これは重要だと思っています。
**寄り道終了**

戦略とは

次に、戦略とは何でしょうか。元来は軍事用語であるその定義は、ビジネスにおいては様々に定義されてきました。なかでも、私自身が最もしっくりくるのは、経営学者の伊丹敬之先生と加護野忠男先生によるとされる定義(*4)です。

(戦略とは)「『企業や事業の将来のあるべき姿とそこに至るまでの変革のシナリオ』を描いた設計図」

また、ビジネスにおける戦略は、少なくとも以下のようなエッセンスを含んだものである必要があると考えられます(*4)。

  • 持続的な優位性を築くもの
  • 力の配分を考えるための手引きとなるもの
  • 戦略自体は最終目的ではなく、ビジョンなどの高次の目的を達成するためのもの

このように考えれば、前述の私たちの「採用のビジョン」は文字通りTA&A部という組織の共通目的に、「採用力5つの力」と「4フェーズモデル」はそのための戦略であり、メンバーの協働を意識的に調整しているものであると位置付けることができます。また、その戦略に沿った形で生み出される新しいチャレンジは、才能あふれるメンバーと、それからまだ見ぬ新しい仲間にとっての誘因となり得るものと信じて、マネジメントは新しいミッションを創造します。

4.採用組織にビジョンと戦略が必要な理由

少し現実に目を向けてみましょう。なぜこのような、ビジョンや戦略が採用組織に必要なのでしょうか。それは、企業の一般的な採用活動業務というものは、その中で働く人の、学習を通じた成長を阻む要因を構造的に含んでいると考えているからです。大まかにまとめてしまえば、以下2点が考えられます。

「採用活動」に内在する構造的難しさ

  • 日本の採用活動には、多くの企業が踏襲する標準的なフローが存在すること(*5)
  • 採用活動自体に構造的な課題が内在すること

第一に、企業の採用に携わっている人には自明と言えることですが、特に日本において(なかんずく新卒採用に顕著ですが)は、就職情報サイトや採用媒体を通じて母集団を形成し、面接を含む複数回の選抜過程を経て採用者を決定するという、多くの企業が踏襲する活動の流れがあります。

イノベーションの研究領域では、市場において標準化された仕様(ドミナント・デザイン)が存在する状況では、企業の焦点は「部分」の機能を高めるための探究へと向かう。という興味深い命題があります。現在の採用市場はまさにそうした状況にあると感じており、「スカウト返信率を高めるためにタイトルを変えよう」だとか、「このスカウトサービスのDBが枯渇したから別の媒体に変更しよう」などは、部分探究の例でしょう。

第二に、企業の採用活動自体に構造的な課題が内在しているという点。これは採用計画が事業計画という組織の上位計画に従属している(はず)ということに起因して起こる課題であり、あえて箇条書きで列挙すれば以下のような観点があります。(*6:以下の3点は、私が尊敬する採用に関する有識者である中島 佑悟さんの論考から要約して引用させていただきます。)

採用は人員計画に依存するため、期中での差し込み/上位計画の変更など、計画した業務のオンスケ進行の阻害要因が多く、長期的な業務目標が立てづらい。

本来は「未来のポジション」の採用にも影響を与えるような、持続性と汎用性の高いストック型の施策(例えば会社の認知強化や将来を見越した採用体制づくり)を行うことで中長期的な改善が図られていくが、上記の業務特性から、現時点でオープンしているポジションに個別最適化した施策に全力を注ぐことになりがち。

(従って)即効性と個別最適性の高いフロー型の施策に打ち手が固定化されて近視眼的となり、結果、重要/緊急でいうと緊急業務で消耗しがちとなり、効率の悪い施策で費用・工数を膨らますことにも繋がる。

以上から、学習を通じた成長を阻む要因を構造的に含んだ、旧来型の採用活動を延々と毎年のように繰り返している限りにおいては、その当事者である採用担当自身の成長に限界が訪れます。旧来型の採用活動とはつまり、新卒採用では大規模な募集媒体に求人を掲載し、エントリーを募ったのちに適性検査や書類でふるいにかけ、顕在化した可能性ある候補者を複数回の面接で選抜すること。あるいは中途採用では人材紹介会社に求人票を丸投げし、紹介された人材から選抜することです。

こういった、標準に則った業務の部分的改善を繰り返しても、自社の採用を根本から変革するようなアイデアは生まれません。従ってそれはその当事者である採用担当自身の成長に、仕組みの方が限界を突き付ける可能性があるということです。

逆に、採用におけるビジョンや戦略の存在は、採用担当が、自分の目の前の活動や、今からやろうとしていることが何につながっているのかがわかりやすくするだけでなく、旧来の採用活動における慣行に閉じない、いわばマネーボール的な採用革新を生む可能性を育みます。かくして、採用においてビジョンと戦略は必要なのだと、私は考えます。

戦略は組織に従うから・・・

Strategic Management

Strategic Management

「戦略は組織に従う」という命題が生まれた『Strategic Management』H. Igor Ansoff (著)
画像はAmazon(US)より引用

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「戦略は組織に従う」という命題を提起したのは、イゴール・アンゾフという経営学者でした。この主張は、もう少し正確に言えば「戦略立案・遂行の質は、組織能力(ケイパビリティ)に依存する」という意味であり、ここまでの議論に当てはめると、採用におけるビジョンがあることで、戦略の時間軸が長くなり、それによって打ち手の発想の自由度が高まり、採用組織の組織学習、場合によってはダブルループ学習(*7)が進み、そのことがひいては採用組織の組織能力(ケイパビリティ)を上げるというサイクルを生む、という可能性を示唆してくれているのではないでしょうか。

WE ARE HIRING!

ここまで少しきれいに語ってきてしまった感が否めないですが、私たち自身、まだまだビジョン実現に向けて課題と考えるべきこと、やるべきことが山のようにあります。そして今まさに、ここまで語ってきた「採用のビジョン」達成のために、仲間を集めています!

採用担当・採用広報担当

採用担当・採用広報担当

ウイングアーク1st株式会社 の求人です。

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詳細は上記募集ページからご確認ください。自社の採用革新を起こすことにとどまらず、世の中の採用業界においても、ソートリーダーシップを発揮できるような組織でありたい、あるいはそのようなプロフェッショナルを排出する組織でありたいと考えています。ともに、難しいことを楽しんでやり、他社に模倣されるような取り組みを仕掛けていきましょう。

長くなってしまいましたが、最後まで読んでいただきありがとうございました。

《参考文献等》
*1:なぜ日本企業に採用マーケターが必要なのか TalentX Lab.
*2:そうした状況の中で、SmartHRさんはさすがかなり具体的に、採用組織の体制や、採用計画まで赤裸々に記事としてオープンにしていて、素晴らしいなと感じました。
*3:「採用力」を構成する5つの力
「5つの力」は、ジャンプ株式会社代表取締役である増渕知行さんが提唱するもので、本家公認の元、大活用させていただいています。
*4:『グロービスMBA経営戦略』グロービス経営大学院 (著, 編集)
*5:『日本企業の採用革新』服部泰宏、矢寺顕良 (著)
*6:採用の中長期計画、立ててますか? 中島佑悟
*7:既存の枠組みを取り払うことで、これまで行ってきた行動や考え方にとらわれず、新しい行動や考え方を取り入れる学習プロセス。採用チームにおける組織学習について、こちらの記事に興味深い内容がまとまっています。


2024年1月31日付で、当社は人的資本に関する情報開示の国際的なガイドライン「ISO 30414」の認証を取得し、これに伴い「Human Capital Report」を公開しました。本認証取得は情報・通信業界では初となり、日本含めアジアで9社目の取得となります!

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